☆ 強調構文について (研究)
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Dragon Relief / 佐麻久嶺神社 (さまくみね)神社にて
It is ( the earthquake ) that (changed his life ...completely. )
彼の人生を完全に変えたのは他でもない、その地震なのだ。
強調構文はIt isとthatの間に強調したい言葉(名詞と副詞の仲間)をはさんだ構文だとよく言われますが、では、このitは何なのでしょうか?そしてthatはなんなのでしょうか?考えていきたいと思います。高校生レベルの教え方はこのブログの後半にでてまいりますので、強調構文の正体について少しおつきあいいただければと思います。
......................................................以下 現代英文法講義より...........................................
強調構文は分裂文とも呼ばれる。1aは典型的な強調構文(分裂文)である。
ところが1bも1aの文と比べ機能差はないと述べている方がいる。
現代英文法講義を書かれた安藤先生である。
1a It is a car that he wants to buy.
1b It is a car.
安藤先生はこうも述べる。「強調構文のitは単なる飾りでなく、なにかを指し示しているもの。その証拠にitのかわりに that、those, heなど、指示性のある言葉が用いられることもある。」つまり、このitではじまる強調構文を使うには、文脈からitが指す内容が分かってないとダメというわけです。
言い換えると、前に A:Jack wants to buy something. Can you guess? B: A bicycle? などの文がもともとあり、それを受ける形で It があるという主張です(A: No. It's a Tesla Y model that he wants to buy.) 安藤先生は続けて、Itは前文のある要素を受ける代名詞であると同時に、関係詞節の先行詞であることも述べられています。先生によると強調構文のもともとの形=基底構造は次のようなものでした。
It (that he wants to buy ) is a car.
これが基底構造としてありましたが、関係詞節が文尾に義務的に(=必ず)移動し、It is a car (that he wants to buy. )という文になったと述べられています。
まとめますと、現代英文法講義には、「強調構文のitはかざりではなく、上記の場合は、前文のsomething to buyを受けている、代名詞であり、かつ、関係詞節の先行詞であるとの意見が有力」と述べられています。安藤先生は細江(1971), Jespersen, MEU(1926), Chomsky (1981)などの研究をあげて例証されています。
これらの研究結果から学べることは、強調構文は一文単位で練習していてもダメで、文脈の中で練習しないとほんとうの使い方が見えてこないということです。上の例でいくと、「Jackには買いたい物がある」という前提が話者の頭の中になければ強調構文を使うことができません。別例を見てみましょう。
○関係詞節の側面を確かにもつ強調構文
Can you guess the woman who I love? It is you (who I love). 基底構造は It (who I love) is you.でこのitは前文のthe womanを指している指示代名詞。who以下は関係詞節です。ちなみにIt isのうしろに人間がくるときは、thatよりwhoが一般的。(whomよりwhoのほうが多いようです。)
強調構文ではthatのかわりに、who, which, when, whereなどが使われることがあります。
It was my brothers who were living in the house.
これはthatに明らかに関係詞的な性質があることを示しています。
よって次のような強調構文も「あり」になります。
It is the chess club to which I belong.
It is the chess club that I belong to.
It is to the chess club that I belong.
It is their own parents whom children values and with whom they identify themselves.
子供が大切にし、一体感を持つのは他でもない彼らの両親である。
○強調構文のもう一つの側面ーサンドイッチしただけの構造ー
このように強調構文には関係詞節としての一面もありますが、その一方で、単にIt is....とthatの間に被修飾語をはさんだだけという一面も確かにあります。両方の面があるのが強調構文でしよう。その証拠に、It is... that 動詞の場合、動詞は被強調語の名詞に呼応して、先行詞としてのItに呼応しているわけではありません。
It was my brothers that were living in the house.
*wereは先行詞Itではなく、被強調語my brothersに呼応。
「思考力をみがく英文精読講義」薬袋善郎 より引用
○情報構造から見た、なぜ強調構文を使うかの理由
もっとも根本的なことは、たくさんのもの、人、時などのなかで、他のものを排除する役割です。「他でもない〜」が強調構文で大事な点です。
さて今までは文単位での強調構文の成り立ちを見てきました。ここからはパラグラフの情報構造の側面から、強調構文がなくてはならない理由をみていきたいと思います。まず質問です。次の文は書き言葉として好ましいでしょうか。
A Russian made the first practical television system.
答えはNOです。普通書き言葉では旧情報→新情報の順で書いていきます。A Russianという新情報が文頭に出てしまうとこの原則に反するため、好ましくありません。もういいたいことはおわかりの人がいるかもしれません。そう強調構文の使用動機は、文頭に新情報が置かれることをさけるためでした。強調構文をつかわないと不自然な文になってしまうのです。強調構文を使うのは、新情報を文頭ではなく、It is の補語の位置、つまり節の末尾に配置すること(End Focus )で自然な情報構造にするためです。
It is < 新情報 > that <すでに出てきている旧情報>
なお、この文の後ろには、新情報についての文がつづくことになります。
もうひとつの強調構文の使用動機ですが、
It is < 旧情報 > that < 新情報 New B> というものです。
あれさっきと言っていることが違うじゃないと思うかもしれません。説明します。
①Nearly every traveler who enters a new culture experiences some unpleasantness thta has come to be known as culture shock. ② Jet travels makes possibles the abrupt loss of a familiar environment. ③ Experts believe that it is this sudden change that cause culure shock.
ここで言う、新情報とは全く新しい情報(NewAとします)ではなく、前に一度でてきた情報でこれを (NewB)とします。①でカルチャーショックの話を出します。②でジェット旅客機が環境をすぐに変えてしまうと言う話。次に③で話をまとめます。this sudden changeは②をまとめたもの。そして that cause culture shockは①をまとめた内容です。
つまりです。It is <旧情報> that <新情報B>のパターンの時の強調構文は、前に出てきた文章達をまとめ、要約してくれているありがたーい文になっているわけです。一応完結しているわけですから、次からは全く新しいテーマがでてくることが予想されます。
以上、情報構造の点から見て、2通りの強調構文があることがわかりました。
英文読解のグラマティカより一部引用
*その後分かったこと
It is ( 1 )that ( 2 ). は、1+2ではじめてひとつの新情報になることがあります。( 1 )だけ新情報の場合は、that節以降は省略が可能ですが、前者のパターンはthat節を省略すると意味をなしません。この場合、1+2の新情報は完全な新情報ではなく、世間の合意あるいは常識を失念しているかもしれない相手に思い出してもらうために述べています。あるものごとに対して、こういう見方もあったよね。思い出してねと使います。
一般論 (A=Bである)
However
It is ( C ) that ( D ). (C=Dの見方もあるよ)
○高校生にどう教えるか
強調構文の指導ポイント
1)オリジナルの文の中で強調したい言葉を抜き出しなさい。
2)it is とthatの間にサンドイッチしなさい。
3)残りはすべてthatの後ろに置きなさい。
4)強調できる言葉は、名詞、副詞句、副詞節のみ。
5)It is と thatをとりさり完全な文が復活できれば強調構文。
そうでなければ 仮主語itと真主語thatの文。
6) It was not until yesterday / that she met him. は結局強調構文。
7)主節と従属節の時制に関しては予備校で教えていらっしゃいますこのブログの読者・キクさんから次のような情報が寄せられています。有り難うございます。
では今後どう指導していけばよいか。実はあまりくわしい説明は生徒にはしないつもりです。英語学的にどうかというのはあまり生徒に関係ありません。ただひとつだけ改善するとしたら、前文を必ずつけた上で練習させようとは思っています。強調構文の命は情報の流れですから。
○追記(強調構文の時制や疑問文について)
1)強調構文の時制
分裂文では2aのように主文と従属節の時制は一致することが多い。
2a) It was John who broke the window.
しかしいつもそうであるとは限らない。
2bのように発話時において、誰がやったか特定するのを主眼においている
場合、主文に現在時制を用いる。
2b It is John who broke the window.
2)強調構文の疑問文がある。
It is John who broke the window.
→Who is it who(that) broke the window?
窓を壊したのは一体だれ?
→I don't know what it is that has been bothering him.
Who was it who interviewed to you?
君にインタビューしたのは一体だれ?(Quirk et al. 1985)
上のWho was it...の文は、疑問詞Whoを強調した強調構文です。
疑問詞を強調するときは、疑問詞をIt is とthatではさむのでは
なく、疑問詞の直後に is(was) it that....?を置きます。
疑問詞+is it that......? という形になります。
3)It was I who loved you most,
It was me who love you most. はどちらとも正しい?
答えはYesです。
マイケルスワンOxford実例現代英語用法辞典にありました。
○It is I who am responsible. ○It is me that is responsible.
前文は I am responsible.という文を意識した言い方
後ろの文は、先行詞Itと関係詞節を意識した構造。
その証拠に It ( that is responsible ) is me.と、
that節内の動詞はamでなく、先行詞Itにあわせ
isになっています。
なお、スワンによれば、
前者は形式ばりすぎで、後者はくだけすぎです。
このような印象をさけるためにたとえば
「I am the person who is responsible. と言えばよい。」
とスワンは書いています。
なんでもかんでも強調構文ではないようですね。
参考 謎解きの英文法 くろしお出版
現代英文法講義 開拓社
思考力をみがく英文精読講義 研究社
英文読解のグラマティカ 論創社
Oxford 実例現代英語用法辞典 Oxford Univ. Press